カテゴリー別アーカイブ: 粘菌生活

第25回 粘菌生活

・・・・・・・・・”What a wonderful world”・・・・・・・・・

今日も目が覚めた。
30分くらいベッドの上で、身体を動かす。
起き上がるのは朝5時半前後。
ベッドに入るのは、午後8時ごろ。

3年前、直腸の検査をした。
浣腸のように肛門から造影剤を入れ、出すところを動画で映す。
レントゲンの機械にポータブル便器が載っている。
検査着の下には、何もつけていない。
便器に座る。
「はい、いきんんで」
出てくる様子が画面に映し出される。

そして括約筋の検査。
お尻を丸出しにして、先生の方に向ける。
先生が肛門に指をさし入れる。
仕事とはいえ、頭が下がる。
先生、ありがとう。
「括約筋には問題がありませんね。直腸の神経が弱っているのでは」

薬とリハビリでコントロールできてきたが、このところ、悪化傾向。
漏れに気づかない。
外出が不便。
原因不明。
調べていただくことになった。
またあの強烈な検査をするのか。

病院の待合室。
人間模様の宝庫。

「どこへ行くの?」
「お手洗い」
「今行ったばっかりじゃないの!」
「ほうかね」
「そうよ。戻って! 座って待っててよ」
「○○さーん、お入りください」
「ほら、呼ばれてるよ」
「ほうかね」
「○○さーん、○○さーん」
「よばれてるってば」
「行っていいのかね?」
「よばれてるのはあんたでしょ!!早く行きなさいよ」
「ほうかね」

母と娘だろうか。
お母さん、いい味出してる。
娘より役者が上。

「いつまで待たせるんだ」
「お待たせしましたね」
「来るのが遅いんだよ」
「連絡があって、すぐに来たんですよ」
「待たせるんじゃないよ。遅いんだよ」

病院スタッフと入院患者さんだろうか。
大丈夫。
お迎えは必ずやってくる。

オシモの問題を抱えて分かる東京のトイレ事情。
よく利用する駅のトイレ。
シャワーのついた洋式便器完備。
立ち上がると自動的に水が流れる。
手を差し出すだけで出てくる温水。
素晴らしきかな。
世界に誇る日本のトイレシステム。
電力と水がなければ排泄物を捨てられないポータブルトイレ。
お尻を拭けない、蛇口をひねれない子どもたちを生みだした。

少しずらせば、なんともおかしい。
切なく愛らしいそれぞれの人生。
”What a wonderful world”
サッチモの歌声が聞こえる粘菌生活。

一色

第24回粘菌生活

・・・・・・笑う粘菌生活・・・・・・

今日も目が覚めた。
あちこち痛い。
いきなり起き上がるとひどい目にあう。

さあ、起きるよ。
身体に話しかける。
あちこちを、すりすり、とんとん、ぱたぱた、ぶらぶら。
隅々に言い聞かせてから起き上がる。

日によって体調が大きく変わる。
昨日と今日、時には午前と午後で乱高下する。
お天気次第。

こうなると、約束が難しくなる。
友だちと外で会ってお茶を飲むのも、家に来てもらっておしゃべりするのも。
今日は気分がいいから、と言っても多くの場合、相手は他の約束がある。

約束の固まりが、経済活動としての仕事。
たくさんの人との約束と、実行からなりたっている。
仕上がりがいつになるか分からない人を、チームに加えることは難しい。
約束の場所に行き、内容を遂行できなければ、全体の仕事が滞る。
こういう厳しい約束は、したくてもできなくなる。

生まれおちて死ぬまで、この世のすべては、1人ではできない。
調理して食べること、排泄後の処理をすることも誰かが担ってくれている。
今この一瞬にも、誰かの手で水や食べものがいつでも手に入るように整えられ、排泄物が処理されている。
元気で健康な時には、見えないだけ。
老いとともに、動きが鈍くなり、同じことをするにも時間がかかる。
これまで出来ていたことができなくなる。
1人だけでできることなど何一つないことが、あからさまになる。

命は命と支え合っている。
約束などしなくても。

「あちこち痛くて」
「ぼくも手が上がらない」
同年輩の主治医がおっしゃる。
「順調ですね」
「あはは。年相応ということで」

「ごめんね。朝から動けない」
「あはは。私も具合悪い。外で会うのは、もう少し暖かくなったらにしようよ」
女友だち。

「ごめんね。もう少し待って」
「低気圧が来てるからね。体調みながらでいいからね」
仕事仲間。

「ごめんね。すっかり忘れてた」
「あはは。そうだと思ってた。私もこの間・・・・・」

「まだしばらく死なないでね」
「あはは。あなたもね」

笑いあえる幸せ。
笑う粘菌生活。

一色

第23回粘菌生活

・・・・・第23回粘菌生活    心配しない・・・・・・・・・・・

今日も目が覚めた。
神経痛がぶり返している。
痛いけど動ける。
ありがたい。

立春をすぎ、梅の甘い香りが漂う。

一姫や梅にゆかりの名は如何に

私が生まれたのは2月。
父の友人が贈ってくれた。

61回目の春。
お借りした身体をずいぶん傷つけてしまった。
それでもありがたいことに、なんとかここまで生き延びた。

父を送った。
でも、まだまだ。
私は母を見送ってから逝く。

これまでに
祖父を送った。
祖母を送った。
義弟を送った。
義父を送った。
義母の母を送った。
義母の兄を送った。
義母の妹を送った。
叔母を送った。
親戚を加えるともっと。

あたりまえだけれど、弔いは生きている者しかできない。
生きているものだけができる。
生きているもの皆で送る。

「この家とアパートあげるから、面倒みてくれない?」
かつて、1人暮らしの親族にそう言われた。
つれあいをなくし、身体が弱ってきていた。

不自由になってきた1人暮らしが不安になってきたのだろう。
しかし私1人で担えることではない。
私だけでなく、他の誰でも1人では担えない。

「生きているうちに家を売ってもっと楽に暮らせるようにしたら?そのためだったら、手伝うよ」
彼女は激怒した。
「家を売れと言われた」といって、他の親族に泣きついた。
そこでも、やんわりと断られた。

1人暮らしの自宅で彼女が倒れ、病院に運ばれた。
最初の話から、10年がたっていた。
病院に皆が駆け付け、10日ほどたって亡くなった。
火葬場へ向う途中、あるじを失った家の前を通ってもらうように頼んだ。

「あの時、亡くなったあとのことは心配しなくても大丈夫だよ。みんなでちゃんと送るからって言えば良かった」
「いや、あそこであなたに家を売れなんて言われたから、最後まで本人が頑張って自分の思い通りにできたんだよ」
「そうよ」
皆が口を揃えた。

彼女が他の親族に泣きついたおかげで、実情がオープンになった。
遠くに住む親族で、横の連絡をとりながらサポートしあった。
役所にかけあい、民生委員さんを通して、各種支援サービスの手続をするようにはたらきかけてもらった。
ヘルパーさんや各種支援もいただけるようになった。
十全ではなかっただろう。
でも、最後まで本人の好きなようにはできた。

さて、残った家とアパートをどうするか。
借り手のいないアパートのリフォームはどうか。
新しくしても、過疎の地。
人がいない。
では処分するか。
地方の古い家を処分した方ならおわかりだろうが、地方の古い家はまず売れない。
アパートならなおさら。
ならば、壊して更地にしたらどうか。
壊すにも数百万円のお金がかかる。
当時は、更地にすると固定資産税が6倍に跳ね上がった。
駐車場は?
その辺にいくらでも空き地があるし、そもそも借り手がいない。

家とアパートを更地にして処分したのち残ったのは、折々の供養代程度。
ちょっとだけ上等の精進落としで「ありがたく御馳走になります」と亡き彼女にお礼をいう一族。

心配しない。
困ったら、その時に考える。
オープンにして皆の力を借りる。
そうすれば、皆で知恵を出し合える。
十全でなくてもいい。
持てるもので、やりくりしていく。
あれこれ心配する時間がもったいない。
自分をご機嫌にさせる時間にしたほうがいいと思う。

一色

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おまたせしました。今週より”粘菌生活”再開です。
明日 2月8日は、旧暦の元旦。
新年とともに復活です。
どうぞお楽しみください。

スタッフより

第22回 粘菌生活

第22回 粘菌生活   初めての経験

今日も目が覚める。
腰が痛い。
起き上がる前に、身体をくねくね動かす。
どこをどうしたら痛むのか。
痛まないのか。
確かめる。
立ちあがって、戸をあける。
東の空を見上げて朝の空気を吸う。

日めくりをめくる。
歯を磨く。
身体と顔を洗う。
下着と腹巻、シャツ、靴下を身につける。
髪をとかして結ぶ。

コーヒーを入れて飲む。
食器を洗う。
食器をふく。
食器をしまう。
ふきんを洗う。
ふきんを干す。

おまじないを筆で和紙にかく。
今日一日の無事をお祈りする。
靴を磨く。

日常。
毎日同じことをする。
毎日同じことをするからこそ、毎日同じではないことが分かる。

奥歯と耳から後頭部にかけた痛みがなくなった。
今日は腰を曲げると脚先に痛みが走る。
髪の毛を結ぼうとする腕が痛む。
階段を下りる膝に痛みが走る。

生きることは初めての連続。
生まれるのが初めてなら、育つことも、老いることも初めて。
初めての経験ばかり。

次になにが起きるのか。
先のことは分からない。
心配しても始まらない。
その日その日、その時その時にやりくりする。

2015年の大晦日がやってくる。
その日暮らしの粘菌生活。

一色

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一色さま、本年最後の「粘菌生活」ありがとうございました。

                   小樽書房スタッフ

第21回 粘菌生活

第21回 粘菌生活   台所を味方に

今日も目が覚める。
寒くなって、すぐに起き上がれない日が続く。
下顎と奥歯に走る電撃的な痛み、頭の割れそうな痛み、そして膝の痛み。
今回はなかなか手ごわい。
胸が苦しく、吐き気までやってきた。
いたたまれなくなって、病院に駆け込む。

痛みは負の記憶を手繰り寄せ、不安を呼ぶ。
再発したのではないか。
このまま動けなくなるのではないか。
負の想念に引きずられる。
大丈夫と分かっても痛みが消えない限り不安が残る。

不安のスパイラルから脱出するための粘菌的儀式。
まず絶食。
お湯をゆっくり飲む。
少し落ち着いたら台所を味方に。

包丁を研ぐ。
米を研ぐ。
豆を水に浸す。

大根は千切りにして味噌汁に。
研ぎたての包丁。
気持ちよく切れる。
赤カブはイチョウ切り。
さっと塩を振り、しんなりしたら水気を絞る。
塩麹をまぶして即席の塩麹漬。

友人が毎年送ってくれる自家用玄米。
水で戻した「浸し豆」と一緒に炊く。
塩とお酒、香りづけに醤油を少し。
塩は海水を煮詰めたあらじお。
塩味の豆ご飯。

今年の梅漬けをのせる。
なんて鮮やかな赤だろう。
ごまを振りかける。
玄米の茶色、梅漬けの赤、いりごまの白、浸し豆の緑。

ご飯を海苔でくるむ。
千切り大根のあつあつの味噌汁。
赤カブの塩麹漬。
ゆっくり丁寧に食べる。

食べたものが身体に染みる。
命がすみずみまでいきわたる。
ここまでくれば、もう大丈夫。

ゆずの季節。
レモン塩ならぬゆず塩を作ってみる。
四つ割にし、さらに4つに切る。
あら塩と一緒に、容器に入れる。

食べ方をあれこれ考える。
そうだ。
ゆずと胡麻のおいなりさんにしよう。
油揚げを買いに行こう。

台所から甦る粘菌生活。

一色

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コラム「粘菌生活」が復活しました!!

一色さま、お忙しい中、「粘菌生活」をお送りいただき、ありがとうございました!

スタッフより